スイスフラン・ショック
英語ではSwiss Franc(currency) shock(スイスフラン・カレンシー・ショック)です。スイスフランは円と同様安全通貨とされ、リスクオフ時には上昇する傾向があります。そのため、スイス国立銀行は日本銀行と同様に、自国通貨の上昇を嫌うという特徴があります。
2011年にのギリシャ危機から飛び火した欧州債務危機では、ユーロを売ってスイスフランを買うという動きが起きました。スイスフランの上昇を防ぐためにスイス国立銀行は同年9月に1ユーロ=1.2スイスフランという上限を設定、それを上回る場合は無制限にユーロ買いスイスフラン売りの為替介入で対抗するという市場への強いメッセージを送りました。
この方針は3年以上続き、投資家は安心してユーロ買いを進めることができました。低金利のスイスフランを調達し高金利の資産、特に不動産に投資するキャリートレードがハンガリーやルーマニアなどの中欧・東欧諸国で盛んに行われていました。
しかし、ECBがQE(量的緩和)を進めたこともあり、ユーロ安スイスフラン高圧力が高まり、これ以上の自国通貨防衛は困難と判断、2015年1月に突然1ユーロ=1.2スイスフランという上限を撤廃しました。
市場では大きなサプライズとなり、わずか数10分で1ユーロ=0.8フランにスイスフランが急騰しました。日本ではスイスフランの取引自体が少なかったので打撃は欧米に比べると格段に小さかったわけですが、中上級者の方は個人投資家でもプロのようにこのユーロ/スイスフランをロングしていたようです。
こうした、恐らく専業中心だと思うのですが、個人投資家はスリッページが通常では考えられないほど拡大し、逆指値レート以上に大きな損失を抱えて強制ロスカットされ、支払不能に陥る方も出たそうです。
その為プロや個人の投資家だけでなく、FX会社も大きな損失を被ることとなりました。
2018年に暴落したVIX指数(恐怖指数)も同じですが、相場では何が起きるか分かりません。安全な投資で着実に少しずつ利益を得られたはずが、人生最大のコツコツドカンとなってしまいます。
そう言った意味ではギャンブルなのでFX入門者や初心者の方には通貨のキャップ制(上限制)を利用したトレードはおすすめできません。2021年11月、ECBが金利引き上げに消極的なことも要因ですが、ユーロ/スイスフランをスイス国立銀行が買い入れているという噂で1ユーロ=1.10フランを超えていた相場は嘘だとわかると下落に転じ、1.05を割ってきています。2015年8月以来の安値であり、パリティも意識されてきました。
そしてブルームバーグのニュースにあるように、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が起きると地政学リスクでユーロが下落、3月7日には1ユーロ=0.9984スイスフランとなりパリティを割り込みました。買い入れのコメントがあった後であり、その後も市場はスイス国立銀行の買いを警戒していました。
しかし、6月16日に新たなスイスフランショックが起きました。ブルームバーグのニュースに記されているようにスイス国立銀行が予想に反して利上げを行ったのです。15年ぶりの利上げであり、世界的なインフレ懸念が広がる中、利上げ競争に加わったということです。スイスフラン高を容認したという意味で、チャートにあるようにEUR/CHFは一気に300pipsも下落しました。
チャートにあるように、その後はパリティを突き抜けると8月20日現在0.965となっています。1.長年のロングが溜まっていた、2. スイス国立銀行の方針転換によるスイスフラン高容認、3.欧州のガス不足によるインフレ長期化懸念の3つが重なったからだと思います。
この新たなスイスフランショックのニュースで上記のような分析をして一気にユーロ/スイスフラン売りを仕掛けられるようになれば、もう上級者ですね!
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