米中貿易摩擦/米中貿易戦争
英語では2018 China-U.S. trade war(2018チャイナ・ユーエス・トレード・ウォー)。トランプ前大統領が同盟国であるカナダ、EU、日本を含む多くのの国が貿易により不当な利益を得ていると訴えたことから始まった2018年の貿易摩擦問題を指します。
EUなど7カ国を除き3月から発動していた鉄鋼・アルミニウムへの関税は、6月にはカナダ、メキシコ、EUに対しても開始されました。さらに大統領はEU自動車関税の引き上げを発表、発動されると、ドイツと日本が一番の影響が及ぶと懸念されていました。
しかし、7月25日にトランプ大統領とEUのユンケル委員長が貿易障壁の撤廃に取り組むことで合意、自動車関税問題も先送りされると、米中二国間の貿易摩擦問題へ変貌しました。
背景にあるのは3,000億ドルにも届きそうな多額な中国の貿易黒字でした。2016年の大統領選挙期間中から中国の巨大な貿易黒字を大統領は問題視しており、2017年8月には、中国の不公正な貿易慣行に関するスーパー301条に基づく調査を始めていました。
そして、2018年3月の米国の鉄鋼・アルミニウムへの関税引き上げに中国も4月に報復を発表、6月に米国が500億ドルの追加関税を発表すると中国も報復を発表、7月には遂に最初に340億ドルが、8月には160億ドル規模の関税引き上げが実施されました。9月には米国が2000億ドルの追加関税実施を発表すると、中国も600億ドルの報復関税を課すと発表しました。
貿易黒字が大きい中国は打つ手がなく報復規模が小さくなったことからか、米国株式市場はブル相場に戻りましたが、中国株式市場は下落基調となりました。
中国への圧力は11月の中間選挙に向けたアピールなのか、それとも中国が発展してきたのは知的財産権の侵害や多額な自国産業への補助金、外資系企業への参入障壁のためで、中国が米国を抜いて世界一のGDP国家となることを許す気は無いというポリシーなのか?
トランプ前大統領の本心がどこにあるのかを読めない間は、いつこの問題が収束に向かうのかは予想できませんでした。
9月24日には2000億ドル規模の5745品目への10%の制裁関税が遂に発動されます。2019年1月には関税は25%へ引き上げられるとのことです。中国も600億ドル規模の報復関税を予定通り実施するとのことです。11月の米国中間選挙での下院での民主党勝利を予測し、米国からの交渉再開要請を拒絶しました。
前回は大豆と自動車が対象でしたが、今回は洗濯機などの家電、食料品、スポーツ用品など米国の消費者を直撃する消費財が約25%も占めるとのことで、民主党を後押しする戦略のようです。中国株も底を打ち、形勢は米国有利から中国有利へと変わりつつあるという意見もありました。
ここまでくると、もう貿易摩擦ではなく貿易戦争と呼ぶべきなのかもしれません。
2019年4月1日、両国が合意に近づいたという報道がなされ、株式相場も2018年末から急回復し、S&P500も2018年10月の最高値まで後60ポイントにまで回復してきました。
米中貿易戦争で一番影響を受けたのは実は両国への輸出額が大きいドイツで、景気後退に陥り、ECBのハト派転換へつながりました。戦争終結で一番恩恵を被るのは実はドイツとユーロだったのです。さらに米国政府による中国の通信機器最大手ファーウェイ排除問題から、米中間の争いは貿易戦争から携帯電話の次世代規格である5Gの覇権争いへと発展していきました。
産経新聞の記事にありますように、ファーウェイは実は単なる安価な携帯端末メーカーではなく、携帯電話のインフラである基地局の世界市場シェアでもエリクソン、ノキアと共に3社で8割を占めるトップメーカーです。次世代の5Gにおいてファーウェイが世界を制すると情報が通抜けになるという安全保障上の問題を米国政府は危惧し始めているわけです。
米中貿易戦争は新たなステージに入ってしまったようですが、世界経済への悪影響が心配されています。特に6月28日にG20で来日中のドイツのメルケル前首相が米中首脳会談の成功を望むという談話を発表したことが、上述のように特にドイツが最大の犠牲者だということを表していると解釈されます。
12月にはトランプ前大統領が第1段階の合意が間近だと発表、リスクオフとなり米国株式は最高値を更新しました。大統領選を控えた妥協措置だと言われており新たな関税引き上げは回避されました。2020年1月に米中経済貿易協定が正式署名され、2月には関税の相互引き下げが実施されました。
しかし、8月にはTIkTokの米国事業売却を実施する大統領令が出され、再び緊張関係に入りました。2021年にバイデン政権が誕生、6月にはWeChatとTIkTok禁止の前政権の大統領令を撤回し、事態は収束に向かうかにも見えました。
一方、ウイグル問題が世界的な人権問題へと発展したことや台湾問題で、米国は12月7日には北京オリンピックへ政府代表団を派遣しない外交ボイコットを発表、16日にはドローン大手のDJIなど中国企業8社を証券投資の禁止対象とするなど、緊張が高まってきています。2022年はこの問題が再び大きく取り上げられるかもしれませんね。
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