『冒険者たち』運命の女性との出会いでも揺るがない男同士の固い友情を描いた1967年:9点
松田遼司の「旅行・音楽・美術好きのための映画・漫画評論」。アマゾンプライムなどで配信されている名作を中心にお届けします。
今回は、「運命の女性との出会いでも揺るがない男同士の固い友情」を描いた『冒険者たち』を紹介します。
『冒険者たち』の概要
『冒険者たち』は、南北戦争を舞台とした『ふくろうの河 』(61年)でカンヌ映画祭パルム・ドール(短篇)を受賞したものの、まだ無名だった新進監督ロベール・アンリコによる67年の作品。夢を失いアフリカのコンゴに宝探しの冒険へ赴いた男二人女一人の友情と愛情を描いた感動作で、日本でも大ヒットとなりました。米国最大の映画データベースの批評サイトIMDbの視聴者3,700人による平均スコアは71と酷い評価です。
ヒロインのレティシアを演じたのがジョアンナ・シムカス。当時はまだ無名でしたがこの『冒険者たち』での清楚な美しさで一気にブレイクを果たしたます。以降アンリコ監督のミューズとなり、『若草の萌えるころ』(68年)、ジャン=ポール・ベルモンド共演のフィルム・ノワール『オー!』と立て続けにヒロインを演じることとなります。69年に『失われた男』で共演した黒人俳優シドニー・ポワチエと76年に結婚、引退してしまいました。出演作品が少ないことで現在でも神秘的な存在となっています。
若くハンサムなパイロットのマヌーを演じたのがアラン・ドロン。『太陽がいっぱい』(60年)で野心的な青年トムを演じて以来、バート・ランカスター共演のヴィスコンティ監督の最高傑作『山猫』(63年)、ジャン・ギャバン共演のフィルムノワールの名作『地下室のメロ ディー』(63年)、フランス革命前夜を舞台に庶民を助けるヒーローの活躍を描いた『黒いチューリップ 』(63年)などで既にフランス映画界のトップスターとしての地位を確立していました。この『冒険者たち』の大ヒットで日本でもトップ・スターとしての人気を確固たるものとしました。
中年の自動車技師ローランを演じたのが、リノ・ヴァンチュラ。天才画家モディリアーニの生涯を描いたジェラール・フィリップ主演の名作『モンパルナスの灯』(58年)での冷酷な画商モレル役、暗黒街の男の友情を描いたジャン=ポール・ベルモンド共演の『墓場なき野郎ども』(60年)などで性格俳優としての地位を確立していました。この『冒険者たち』での演技でファン層を広げ、69年にはジャン=ピエール・メルヴィル監督の傑作『影の軍隊』、ドロン、ギャバンと組んだシシリア・マフィアの強盗団を描いた『シシリアン』でも主役を演じることとなります。
フランス映画を代表する性格俳優のセルジュ・レジアニが、宝発見の鍵を握るパイロット役でを持ち前の渋い演技を披露しています。
アンリコ作品の常連でありドロン主演の『サムライ』(67年)や『さらば友よ』(68年)なども手がけているフランソワ・ド・ルーベによる叙情性あふれる音楽も映画の魅力に大きく貢献しています。やはり往年の名画は音楽も素晴らしいものが多く、テーマ曲を聴けば作品の名シーンが心に甦ることが魅力の一つといっても間違いではないでしょう。口笛のメロディも郷愁を誘う「レティシアのテーマ」など名曲ぞろいです。
またレティシアの個展でのレティシアの豪華な衣装やパリの風景、コンゴでの『太陽がいっぱい』を彷彿させる2本のマストを持つヨット(スクーナー)でのシーン、小型飛行機やレースカーのシーンな「ファッショナブルな60年代のフランス文化」への憧れを想起させてくれます。
『冒険者たち』のネタバレなしの途中までのストーリー
ネタバレなしの途中までのストーリーは、スクラップであふれたあるパリの工房で始まります。駆け出しの前衛彫刻家であるレティシア(シムカス)はスクラップを売ってくれとローラン(ヴァンチュラ)に頼みますが、忙しいと相手にされません。しかしその熱意に負けて手伝ってくれとレティシアを車にのせたローランが向かった野原では、複葉機が曲芸飛行に挑んでいました。飛行機から降りてきたのは若くハンサムなパイロットのマヌー(ドロン)で、レティシア誘うと再び空に舞い上がりました。マヌーは凱旋門の下を飛行機でくぐり抜け、それを撮影するという映画会社の仕事を飛行クラブの会員から請け負っていてその練習をしていたのでした。
翌日、マヌーは凱旋門を目指しましたが運悪く国旗が凱旋門に掲げられていたために失敗、さらに危険飛行のペナルティとしてパイロットライセンスを永久に停止されてしまいました。賠償金をもらうために依頼主の会社に連絡すると、依頼主はそんな仕事を頼んだ覚えはなくからかわれたのだと告げられます。失業したマヌーは、ローランの仕事場に移り住みます。自分をはめた飛行クラブの会員を殴りつけると、保険会社の社員であるその会員は、コンゴで財宝を積んだ飛行機が墜落したという儲け話をして許しをこいました。
一方自動車技師であるローランは、高回転のエンジンを完成させその特許を売ることをもくろんでいました。最初のテストドライブは黒煙を噴いて失敗、二回目は成功したに見えたがブレーキ役のパラシュートが開かず炎上、車にも火が移り辛くも逃れたものの爆発してしまいます。ローランの仕事場でスクラップを基に前衛彫刻を制作していたレティシアも個展を開きましたが、新聞で批評家たちに酷評されてしまいました。
三人は気持ちを切り替えると、新たな夢のために一攫千金を狙い、保険会社の社員から聞いた財宝を探しにアフリカのコンゴに向かいます。コンゴで3人は2本マストのヨットで財宝の捜索に乗り出しました。ある日今では食うのにも困っていたコンゴ動乱の際にその飛行機を操縦していたパイロット(レジアニ)が三人の船に乗り込んできます。パイロットの案内で、3人は飛行機が墜落しているという地点に向かいまいした….
『冒険者たち』を観ての感想
この後に、予期せぬさまざまな展開が続いていきます。マヌーとローランは、二人ともレティシアを愛していました。レティシアのために二人は代わりに彼女の夢を果たそうとします。そして感動的なラスト・シーンへとすすんでいきます。マヌーにかけるローランの言葉とマヌーの笑顔とせりふも忘れがたいです。『さらば友よ』『サムライ』など、ドロン映画にはラスト・シーンが記憶に残る作品が多いです。
作品の一番の魅力はシムカス、ドロン、ヴァンチュラが演じた3人の主役のキャラクターでしょう。それぞれの夢を失っても挫折せずに次の目標に向かっていくポジティブさ、魅力的なレティシアの登場にも揺るがないマヌーとローランの友情、二人の自分への愛を感じながらそのどちらをも傷つけないように気遣うレティシアの優しさなどに、惹かれない観客はいないでしょう。これが「決して芸術性は高くない娯楽映画だが、現在まで名作として語り継がれている由縁」なのでしょう。
「夢を追い続けることの素晴らしさと相手を思いやる男同士の友情の素晴らしさが印象に残る名作」といえるでしょう。もちろんシムカスの清楚な美しさも忘れがたいですが。
フランスやアフリカの景色、ドロンやシムカスの美しさや衣装は旅行好きや美術好きを満足させてくれるでしょう。
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