『ドライビング Miss デイジー』人種、階級、年齢に関わらず人は親友になれる 1990年:9点
松田遼司の「旅行・音楽・美術好きのための映画・漫画評論」。アマゾンプライムなどで配信されている名作を中心にお届けします。
今回は、「人種、階級、年齢に関係なく人は親友になれるという夢物語」を描いた名作『ドライビング Miss デイジー』を紹介します。
『ドライビング Miss デイジー』の概要
『ドライビング Miss デイジー』は「ピューリッツァー賞」演劇部門受賞のアルフレッド・ウーリーによる舞台を彼自身の脚本で映画化した作品です。日本では未公開だがアカデミー脚本賞と主演男優賞受賞の隠れた名作『テンダー・マーシー』(83年)のブルース・ベレスフォードが監督を務めています。
アカデミー賞では9部門でノミネート、作品賞、主演女優賞など4部門で受賞した名作です。邦題は珍しく原題と同じとなっています。
米国最大の映画データベースの批評サイトIMDbの視聴者114,000人による平均スコアは、7.6であり、アカデミー作品賞受賞作品にしては評価が低いのは、やはり人種問題が影響しているのでしょうか?
主役の老婦人を演ずるのは英国出身の名舞台女優のジェシカ・タンディ。その後米国に移りブロードウェイでテネシー・ウィリアムズの戯曲『欲望という名の電車』(47年)(ヴィヴィアン・リー主演で映画化された)で主役を演じ、トニー賞を受賞しています。その後70歳代で2度のトニー賞を受賞、『ドライビング Miss デイジー』では80歳での最高齢受賞だった。『フライド・グリーン・トマト』(81年)でも素晴らしい演技を見せています。
初老の黒人運転手はモーガン・フリーマン。この作品が出世作となり日本でも人気の高い『ショーシャンクの空に』(94年)、ブラピ共演のサスペンス『セブン』(95年)、アカデミー上演男優賞受賞のイーストウッド監督の感動作『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)などで準主役を務め、ハリウッドを代表する脇役となりました。
老婦人の息子ブーリーを大人気コメディテレビショーの「サタデー・ナイト・ライブ」出身でジョン・ベルーシと組んだ『ブルース・ブラザース』(80年)『ゴーストバスターズ』(84年)などで知られるコメディ俳優のダン・エイクロイドを演じています。この作品ではスリムな過去の姿からは考えられないう太った中年男として登場、アカデミー助演男優賞にノミネートされ演技派俳優としての新境地を開きました。
『ドライビング Miss デイジー』のネタバレなしの途中までのストーリー
ネタバレなしの途中までのストーリーは、戦後間もない米国南部ジョージア州アトランタで始まります。主人公のユダヤ系老婦人デイジー(ジェシカ・タンディ)が車を発進させようとしてギアを入れ間違え、車が落ちかかる場面から始まります。息子のブーリー(ダン・エイクロイド)や警官、保険会社社員が見守る中で落ちてしまったクレーン車が車を引き上げます。ブーリーはギアのかけ間違いで保険会社がどこも手を挙げてくれない、運転手を雇うべきだと説得しますが、彼女は悪いのは自分ではなく、車だと過ちを認めようとしませんでした。元教師だった彼女は夫を亡くしており、黒人家政婦と隣人の3人の主婦と麻雀をするなどして余生を静かに過ごしていました。
工場を経営している富裕なブーリーは、母には内緒で初老の黒人男性ホーク(モーガン・フリーマン)を運転手として雇い、母の家に向かわせます。ホークは完全に無視され、手持ち無沙汰で花壇の手入れなどをしますがそれも拒絶され、買い物にも市電で行くと言い張ります。歩きだした彼女を追い、車で並走するホークとの口論を隣人に聞かれたデイジーは、仕方がなくホークの車に乗り込むのでした。
ある日、缶詰が1つ無くなっていることに気づいた彼女は早朝から息子を家に呼びつけ、「ホークが泥棒だ」と言いはります。缶詰1つで呼び出されたブーリーは「いい加減にしてくれ」と言い返します。そこに家政婦と共にホークが現れ、「古くなったものは食べていいと言われて缶詰を一つ食べたが味が変だったので新しいのを1つ買ってきた」と話しました。それを聞いたデイジーは恥じ入り、ホークを信頼するようになります。
ホークを連れて夫の墓参りにでかけたデイジーは、隣人Bauerに頼まれた花を2列先の彼女の墓に置いてくるよう命じました。ホークは口ごもりながら、それは難しい、自分は字が読めないのだと告白します。そえを聞いたデイジーは最初のアルファベットの発音はBuaだ、文字は何かと尋ねると、ホークはBだと答えます。最後はArだというと彼はRだと答えます。こうして最初がB、最後がRとつぶやきながらホークは無事にBauer家の墓を見つけることができました。その後字を学ぶための教科書も与えました。
それから5年後、アラバマ州に住む弟の誕生日パーティーに出かける途中でデイジーは初めて他の州にでかけた少女時代の興奮を語ります。ホークはそれに対して自分はジョージア州から出るのは初めてだと語ります。途中でガソリンを入れたのですが、その後ホークが用を済ませたいといいます。なぜスタンドで済ませなかったのだと問うと、黒人には使用が許されていないのだと答えます。我慢するように言いますが、無理だと断られます。
その後草むらに車を止め、家政婦の作ったランチを取っていると、2人のシェリフが現れ、身分証明書と車両証明を見せるように言います。変わった名字だと言われたデイジーはドイツ系だと答えます。ニヤニヤしながら証明書を戻したシェリフは同僚に「黒人のじいさまとユダヤ人の婆さんとはいいコンビだ」と嘲笑するのでした。
さらに10年が経ち、ケネディ大統領の時代になると、家政婦が亡くなり、デイジーはホークに頼るようになります。
数年後、シナゴークに礼拝に行く途中、シナゴークがKKKに爆破されたと聞いたデイジーはショックを受けます。キング牧師による黒人の差別を無くすための公民権運動が盛んになっていました。ブーリーに牧師の演説ディナーに一緒に出席するように諭すデイジーでしたが、商工会議所の仲間から仲間はずれにされると断られます。ホークを誘うと「なぜもっと早く誘ってくれなかったのだ」とやはり断られてしまうのでした….
『ドライビング Miss デイジー』を観ての感想
老婦人デイジーは仲々他人を信じない性格でした。家事以外の全ての事を自分で行おうという自尊心も備えています。その彼女が、ニグロと呼ばれ差別されていた黒人で、階級も異なるホークを頼るようになるというのは奇跡に近いことでしょう。缶詰の件や、字を読めないのを教えていく中で、信頼感が生まれていったのでしょう。
さらにアラバマでの一件で黒人への差別に気づき、シナゴーグの爆破で富裕であってもユダヤ人への偏見があることも知ったのでしょう。富裕な奥様として何不自由なく暮らしていたのが、差別されている側の人間の立場に立てたわけです。この事で差別されている人達の痛みを知り、黒人であるホークへの偏見も完全になくなり、息子よりも信頼できる人物として見るようになったのでしょう。その後のストーリーはさらなる感動を呼びます。
アカデミー作品賞の名に恥じない名作であり、タンディの名演技に感銘を受けることでしょう。サンフランシスコなどの西部やニューヨークなどの北東部とは異なるエキゾチックな米国南部の風景は旅行好きにはたまらないでしょう。
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