『金曜日の別荘で』肉体的愛と精神的愛の違いを描いた 1991年:7点
松田遼司の「旅行・音楽・美術好きのための映画・漫画評論」。アマゾンプライムなどで配信されている名作を中心にお届けします。
今回は、「肉体的愛と精神的愛の違い」を描いた秀作『金曜日の別荘で』を紹介します。
『金曜日の別荘で』の概要
『金曜日の別荘で』は、ブリジット・バルドー主演、ジャン=リュック・ゴダール監督の名作「軽蔑」などで知られるイタリアの人気小説家モラヴィアの同盟小説を映画化した作品です。原題は『la Villa del venerdi e arti racconti』、英語題名は『Husband and Lovers』とわかりやすいものとなっています。
5人の監督によるシルヴァーナ・マンガーノ主演のオムニバス『華やかな魔女たち』(67年)『わが青春のフロレンス』(70年)などで知られる恋愛映画を得意とするマウロ・ボロニーニが監督を務めています。主演の二人の衣装はアルマーニ、音楽は巨匠エンニオ・モリコーネで、美術好きは見逃せない華やかな作品となっています。
米国最大の映画データベースの批評サイトIMDbの視聴者443人による平均スコアは、4.6であり、不倫がテーマであることもあり米国での評価は低いようです。
主役の悩める夫ステファノを演ずるのは英国出身の名舞台女優のジュリアン・サンズ。妻の行動に重み悩む善人の夫を演じています。フィレンツェを舞台に20世紀初頭の英国における階級の違いを描いた名作『眺めのいい部屋』(86年)、シェリー夫人によりフランケンシュタインの怪物が生まれることになったバイロン卿邸での一夜を描き詩人シェリーを演じたゴシック(86年)をなどで人気を誇っていました。2023年1月にカリフォルニア州での登山後に消息を絶ち、6月に遺体で発見されたのは残念でした。
妖艶な妻アリーナ役はジョアンナ・パクラ。ポーランド出身でウィリアム・ハート主演のサスペンス『ゴーリキー・パーク』(84年)が出世作となり日本でも知られていました。『軽蔑』のバルド−同様に見事なヌードを披露しています。
愛人パオロを『愛しきは、女/ラ・バランス』(83年)、リュック・ベッソン監督の『ニキータ」(90年)で主人公に暗殺者としての教育する役で注目された一度見たら忘れない性格俳優の『ゴーストバスターズ』(84年)などで知られるチェッキー・カリョが演じています。この作品ではサディストの愛人役を見事に演じています。
『金曜日の別荘で』のネタバレなしの途中までのストーリー
ネタバレなしの途中までのストーリーはフィレンツェのダヴィデ像のレプリカから始まります。モリコーネの音楽と風景が場を盛り上げます。ボルボ240で脚本家のステファノ(ジュリアン・サンズ)と妻のアリーナ(ジョアンナ・パクラ)は撮影地のローマへ向かいます。車の隣に停まったバイクの美女と目が合ったステファノは途中で立ち寄ったレストランで彼女をみかけると「電話をかけてくる」とアリーナに告げると後を追い、トイレで浮気をします。何もなかったかのように戻るとキスをしますが、何かに気づいたようなアリーナは席を立ちます。そこに現れたバイクの美女に「なぜ浮気をするの?」と尋ねられたステファノは、「彼女も浮気をするからだ」と答えるのでした。
ローマの滞在先は豪華で、二人共気に入ります。しかしアリーナは、突然ステファノに告げました。「月曜から金曜の夜までは貴方と過ごすけれど、金曜から日曜は愛人と一緒にいるから」というのでした。二人ででかけたモダン・ダンス会場ではサティの音楽が流れ、デカダンな雰囲気を醸し出していました。そこに居合わせた男(チェッキー・カリョ)がアリーナにウインクしてきます。愛人のパオロでした。アリーナは満面の笑みを浮かべます。それを観たしてステファノは「なぜ彼がここ?」にと動揺するのでした。
翌晩、パオロのもとに向かう支度をするアリーナをステファノは嫉妬の目で見つめます。そのヌードやストッキングを履く仕草や、全身を真っ赤な衣装で包んだ姿は美しく、見惚れてしまいます。「初日からこうだと先が思いやられるわ」という彼女に、「海岸の散歩などの行為の共有は嫌だ」と告げるのでした。「貴方もルイーザと逢いにいけばいいのよ!」と言うとミニを運転して出ていくのでした。
海岸で乗馬を楽しみ、ドーリア式の円柱が建つ海岸のヴィラのピアノ演奏などアリーナとパオロは楽しんでいましたが、ステファノは一人でビリヤードをし、バーに出かけるのでした。
翌週には嫉妬でたまらなくなったステファノは妻の後を車で追います。パオロの別荘のそばのレストランにアリーナを呼び出すと「帰宅後に何をしたかなどの報告はしないでくれ」と頼むのでした。別荘に戻るとアリーナは突然何者かに襲われます。そして新しい世界に目覚めたのでした。日曜日にベートーベンを弾いていた彼女の話では、それはパオロで、ラヴェルを弾いて優しくしていたはずが待たされて怒り、乱暴をしたのだそうです。「それが素晴らしかった」と伝える彼女にステファノは「それはマゾとサドだ!」と吐き捨てるように言い放ちましたが、彼女の気持ちは変わりませんでした…..
『金曜日の別荘で』を観ての感想
ステファノは妻への欲望よりも愛情が強く、彼女を抱きたくなくなります。「精神的な愛を大切」にしていました。それに反してアリーナは「欲望=肉体的な愛」に生きていました。この二人の愛は真逆なので、うまくいくはずがないのです。「なぜ結婚したのだろう?」と思ってしまいましたが、その際にはお互いに「精神的な愛」と「肉体的な愛」を感じていたからなのだと理解できました。
しかし、時が経ち、夫に欲望を感じなくなったアリーナは愛人を作るようになったのでしょう。それに合わせてルイーザのような愛人を作ったステファノでしたが、心が満たされることはなかったのです。「海岸の散歩などは嫌だ」という発言は、「肉体の愛」は許せるが「精神的な愛」は許せないということなのでしょう。
このように自分を愛してくれる夫を邪険に扱うアリーナには「因果応報」が待ち受けています。『軽蔑』に比べるとそれほど酷いものではなく、モラヴィアも歳をとり優しくなったのかもしれません。
「肉体の愛」と「精神的な愛」の違いについて分かりやすく描いています。日本では無名の作品ですが、そのヌード、衣装、建築やインテリア、風景が織り成す映像美は素晴らしく、音楽ともマッチしています。旅行・音楽・アートが趣味の方にとっては見ても損はない作品でしょう。
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