ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti)松田遼司の映画評論スコア(9点)
フェリーニ、アントニオーニ、パゾリーニと並ぶイタリア映画界を代表する耽美派の巨匠。前期ルネッサンス時代にミラノ領主だったヴィスコンティ家出身の伯爵で、崩壊していく貴族・上流社会の退廃的な内面を当事者の立場から見事に描き出し日本でも高い人気を誇った。伯爵ながらイタリア共産党に入党しており、「赤い伯爵」と呼ばれた。バイ・セクシュアルとしても有名で関係を噂された美青年のアラン・ドロンやヘルムート・バーガーを好んで作品に登用した。
1906年生まれ。ジャン・ルノワールのアシスタントとして映画製作に携わるようになり、42年にヴィットリオ・デ・シーカの『子供たちは見ている』などと並ぶネオレアリズモ運動の先駆け的な作品である『郵便配達は二度ベルを鳴らす』で監督デビューを果たし、一気に注目された。
その後も南イタリアの貧しい漁師たちを描いた『揺れる大地』(48年)、アンナ・マニャーニ主演の子役のオーディションに合格するために奮闘する母娘を描いたコメディ『ベリッシマ』(51年)などネオレアリズモ的な作品を発表した。
54年にイタリア独立戦争を背景に敵であるオーストリア軍の将校との恋と愛国心の板ばさみになるヴェネツィアの公爵夫人の苦悩をアリダ・ヴァリ主演で描いた『夏の嵐』で耽美的な作風を確立した。
その後はドストエフスキーの同名小説を映画化したマルチェロ・マストロヤンニ主演の『白夜』(57年)とイタリア南部からミラノへ移住してきた貧しい家族の生き様をアラン・ドロン主演で描いた『若者のすべて』(60年)の2本の白黒映画がそれぞれヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞と審査員特別賞を受賞、さらにバート・ランカスター、ドロン主演でシシリアを舞台に没落していく自らの属する貴族階級と台頭してくる新興階級を静観する公爵の姿を優美に描いた『山猫』(64年)でカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞、巨匠の地位を確立した。
以降、ギリシャ悲劇のエレクトラをベースに姉と弟の近親相姦を描いた『熊座の淡き星影』(65年)、ただ焼け付くような暑さを感じたというだけで自分でも分からないままに人を殺し、一言の弁解もなく死んでいった男を描いたアルベール・カミュの同名小説を映画化したマストロヤンニ主演の『異邦人』(67年)、ナチスが台頭する1930年代ドイツを舞台に鉄鋼一族の凋落を描いたイングリッド・チューリン、ダーク・ボガード、ヘルムート・バーガーが怪演をみせた退廃的な名作『地獄に堕ちた勇者ども』(69年)などでヴィスコンティ監督は滅びの美学と呼べる作品を高い芸術性の中に次々と発表し、退廃的な芸術映画の巨匠という独自の世界観を確立してきた。
敬愛するトーマス・マンの同名小説を映画化した老作曲家(原作では作家)の美少年への恋を描いたビョルン・アンドレセンの美しさも話題となったボガード主演の代表作『ベニスに死す』(71年)で「滅びの美学の頂点に立つ作品」を作り上げ、「芸術映画の第一人者」としての地位を確固たるものにした。
さらにワーグナーの庇護者であったバイエルン王ルートヴィヒ2世の生涯をバーガー主演で描いた大作『ルートヴィヒ』(72年)、ローマを舞台に静かに暮らしていた老教授と間借り人として乱入してきた上流階級の夫人一家との奇妙な交流をランカスター、バーガー主演で描いた最高傑作『家族の肖像』(72年)、ジャンカルロ・ジャンニーニ、ラウラ・アントネッリ主演のプレイボーイの伯爵とその妻の苦悩を見事に描いた遺作『イノセント』(75年)と素晴らしい作品を残したが『イノセント』の編集を終えた直後に69歳の生涯を閉じた。
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