私小説&海外古典短編小説

『恋のエチュード』恋愛には初めと中間と終わりがある 1971年:8点

松田遼司の「旅行・音楽・美術好きのための映画・漫画評論」。アマゾンプライムなどで配信されている名作を中心にお届けします。

 今回は、「恋愛におけるタイミングの重要性」を描いた名作『恋のエチュード』を紹介します。

『恋のエチュード』の概要

 『恋のエチュード』は、ジャン=リュック・ゴダール監督と並ぶヌーベルヴァーグの巨匠、フランソワ・トリュフォー監督の71年作品です。原題は原作小説と同じの『Les Deux Anglaise et le continent=二人の英国人と大陸』、二人の英国人の姉妹と「大陸」と彼等から呼ばれたフランス人の青年の恋物語であることから名付けられたようです。英語題名は『Two English Girls』とシンプルになっています。実際は舞台はウェールズでありイングランドではないので、『Two Welsh Girls』となるはずなのですが、日本人はともかく、祖先の地についての米国人の無知さには頭が下がります。

 邦題はこの時代の作品に特有の洒落たものになていますが、エチュードはショパンのピアノ曲で有名なように練習曲という意味であり、うぶな主人公たちの恋の練習を描いたと言いたいのでしょうか?

 原作はダダやエコール・ド・パリの画家と親しかった画商で、トリュフォーの代表作の「突然炎のごとく」の原作者でもあるアンリ=ピエール・ロシェの自伝的小説らしく、主人公の3人にもモデルがいるようです。そのうちの一人は日本で人気の高い女流画家マリー・ローランサンであり、美術好きには外せない作品となっています。主人公の女性たちの行動が常人ではなく、芸術家のようである特異なものであることも、こうした背景を知ると「なるほど」と頷けるでしょう。恋愛映画の巨匠であるトリュフォーらしい恋愛上級者向けの作品となっています。

 音楽はトリュフォー作品の常連でその後英国、ハリウッドにも進出した名匠ジョルジュ・ドルリューで、作品を盛り上げています。

 米国最大の映画データベースの批評サイトIMDbの視聴者5.7万人による平均スコアは7.2であり、難解な恋愛映画でありながら、米国での評価は意外と高いようです。反対に本国では不評だったようです。

 主役クロードは処女作『大人は判かってくれない』以来監督自身の分身を演じてきたジャン=ピエール・レオ。まさにフランス人という役はぴったりです。

 姉の彫刻家アンキカ・マーカム。英国女優のようですがこの作品以外では知られていないです。

 妹ミュリエル役のステーシー・テンデターも、画像がほとんどがこの作品のものであり、無名の存在でしたが、複雑な性格を持つミュリエルを見事に演じています。

 

恋のエチュード』のネタバレなしの途中までのストーリー

 ネタバレなしの途中までのストーリーは20世紀初頭のパリで始まります。クロード(ジャン=ピエール・レオ)の母の友人の娘アン(キカ・マーカム)が一家を訪ねてきます。フランス人は平気で嘘をつくと批判し、ロダンに憧れ、彫刻家になるのが夢のアンは当時としては珍しい進歩的な女性でした。眼を病んでいる妹に会わせたいとクロードをウェールズに誘うのでした。

 ウェールズに着いたクロードは途中でアンと出会い、母親に紹介されます。妹は具合が悪いと夕食には現れませんでした。翌日会ったミュリエル(ステーシー・テンデター)は眼帯をしていましたが、それをずらして自分をみつめてくる視線を感じました。アンと散歩、ミュリエルにフランス語を教え、3人でテニスをするなど幸せな時間が流れます。

 クロードは2人のことを比較して日記に書いていいると、ミュリエルが気になるようになります。ある日の夜のミュリエルとの2人きりでの散歩で「肉体の愛」について語ると、彼女はその後2日間姿を表しませんでした。その後娘たちの行動が世間から批判されていると母親に告げられたクロードは、隣人の家に泊まることになります。

 これで気持ちが抑えられなくなったクロードは恋に突き進み、結婚を申し込む手紙をミュリエルに出しましたが、アンを介して兄妹になろうという返事が戻ってきます。アンは妹は自分の気持に気づいていないだけで、気持ちが変わるから、恋を捨てないようにアドバイスをします。クロードはパリから母親を呼びますが、母は眼の悪いミュリエルと結婚させる仕組まれた罠だと怒っていました。隣人の取り無しで、「2人は今後1年間健康を守り、文通もしないことを約束し、守ることができたら結婚できる」と宣言されました。

 ミュリエルは日記を書いて送り合うことを提案します。そして聖体を拝領しました。一方のクロードはロンドンで現代英国美術展を企画したり、母から3棟のアパルトマンを相続管理し、その1棟に住むことになりました。そして女流写真家とも知り合いました…..

 

恋のエチュード』を観ての感想

  劇中の「恋愛には初めと中間と終わりがある」というミリアムの台詞が全てを物語っています。最初はクロードの愛がミリアムのそれを上回っていました。しかしクロードは子供で離れてしまうと忘れてしまうのに対し、「スロースターター」のミリアムの気持ちは会えないと段々と強くなっていきます。

 「恋愛はタイミングが重要」であり、タイミングが合わない時は、「どんなに理想や相性が合った相手であっても、上手くいかないことがある」わけです。結末には、「なんでそうなるの?」と思われる方も多いでしょうが、「そうだよね」と思う方もいるでしょう。前者だと評価は低くなり、後者だと高くなるような、複雑な恋愛映画です。

 筆者自身、一度分かれた元カノが戻ってきて、5年から10年もダラダラとくっついたり離れたりという経験を何人とも繰り返しました。どの方とも結婚まで至りませんでした。この映画の名台詞にあるように、「もう終わってしまった恋愛をずるずると続けていただけ」だったのでしょう。相手の方は「その後付き合った方より私の方がマシだから戻っただけ」であり、もう既に恋は終わっていたのです。恋愛経験が豊富な方におすすめです。

 

 ロダン美術館が冒頭と最後に登場し、旅情を駆り立てれます。『バルザック像』などその作品が観られるのも楽しいです。姉妹が住むウェールズの海岸の景色(実はフランス)の景色も美しいです。ファッション、音楽のセンスもよく、旅行・音楽・アートが趣味の方にとっては見ても損はない作品でしょう。

 

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