『男と女』過去を忘れられない女を愛することができるのか?1966年:10点
松田遼司の「旅行・音楽・美術好きのための映画・漫画評論」。アマゾンプライムなどで配信されている名作を中心にお届けします。
今回は、『過去を忘れられない女を愛することができるのか?』を問うた『男と女』を紹介します。
『男と女』の概要
『男と女』は、ご存知フランシス・レイの「ダバダ。ダバダバダ、ダバダバダ…」という軽快なスキャットのテーマ曲でも知られる恋愛映画の名作です。当時無名だったクロード・ルルーシュ監督にカンヌ国際映画祭パルム・ドールとアカデミー外国語映画賞をもたらした66年の作品です。
現在のシーンと過去の回想シーンが交じり合いながらストーリーが情感たっぷりに展開していく、非常に美しいラブ・ストーリーです。米国最大の映画データベースの批評サイトIMDbの視聴者11,000人による平均スコアは7.5とそこそこの評価です。
「女」を演じたアヌーク・エーメは当時33,34歳、モディリアーニの生涯を描いた『モンパルナスの灯』(58年)、フェリーニの傑作『甘い生活』(59年)や『8½』(63年)、などでフランスを代表する女優となっていました。
「男」を演じたジャン=ルイ・トランティニヤンは35,36歳、ジェラール・フィリップの遺作『危険な関係』(59年)、上流階級の人妻とファシスト高官の息子の激しい恋を演じた隠れた名作『激しい季節』(59年)などで知られていましたが、やはりこの『男と女』が出世作といえるでしょう。
『男と女』のネタバレなしの途中までのストーリー
ネタバレなしの途中までのストーリーは、リゾート地であるドーヴィルの寄宿学校で始まります。映画の撮影現場で働く女アンヌ(アヌーク・エーメ)は、娘との面会日である日曜日に長居をして列車を逃してしまいました。やはり息子に会いに寄宿学校を訪ねていたレーシング・ドライバーの男ジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニヤン)と出会い、パリまでジャン・ルイの運転する車で送ってもらうこととなります。
ジャン・ルイはアンヌに好意を持ちます。ジャン・ルイはアンヌを誘い次の日曜も寄宿学校に出かけ子供達と4人で過ごします。そしてお互いに結婚していると思っていた二人でしたが、それぞれのパートナーを事故で亡くしていることが明らかになります。
過酷なモンテ・カルロ・ラリーを終えたジャン・ルイは、意を決してパーティーを抜け出し、夜を徹してアンヌのパリのアパルとマンへとラリー・カーを走らせました。ようやくパリに着きますがアンヌがドーヴィルの寄宿学校に出かけたことを知ったジャン・ルイは、ドーヴィルへ向かいます。そして浜辺で戯れるアンヌとその娘、自分の息子を見つけるのでした。ジャン・ルイを見つけ、駆け寄ってくる3人。。ジャン・ルイとアンヌはお互いを固く抱きしめるのでした….
『男と女』を観ての感想
これだけ読んでも「なんだ、普通の恋愛映画とさほど変わらない」と思われるでしょう。しかしこの映画が他の映画と「一線を画しているのは、一つ一つのシーンの美しさと、そこにぴったりと合った映画音楽の存在」でしょう。ジャン・ルイとアンヌの心が高まるシーンにかかる有名なテーマ曲の他にも、レーサーであるジャン・ルイのレース・シーンにかかる緊迫したテーマ、二人の虚しい愛の行為の後にかかる「愛は私達より強く 」、アンヌの亡き夫の登場シーンにかかる「今日,貴方が 」などすべての曲が素晴らしいです。
劇中だけでなく当時実生活でもアヌーク・エーメの夫であったピエール・バルーは2000年ごろの「カフェ・ブーム」で日本でも流行した「フレンチ・ボサの立役者」であり、フランシス・レイの名曲に加え彼の手によるお洒落なボサノヴァが楽しめます。
この映画で「忘れられないシーンといえばやはり有名なラスト・シーン」が挙げられますが、他にも記憶に残る名シーンが多いです。
冒頭の、「二人が出会いパリまでジャン・ルイの車で帰るシーン」も素晴らしいです。ラジオから流れるシャンソンと幸せそうに笑いあうジャン・ルイとアンヌのショット。最初から恋を予想させる名シーンです。そして、「何といってっもストーリーの最後に書いた感動の再会シーン」です。ヘッド・ライトを点滅させ気づいたアンヌとジャン・ルイが駆け寄り、「テーマ曲の流れる中初めて抱き合う二人のまわりでは、戯れる子供たちと飛び跳ねる1匹の犬」が映し出されます。幸せな家族の情景です。このシーンも「ラスト・シーンと並び映画史に残る名シーン」だと思います。その他にも、「レストランで部屋を頼むシーン」、「愛の場面とその後の気まずい雰囲気のシーン」など、名場面の連続です。
この作品のテーマは「未だに過去を忘れていない女を愛せるか?」です。ジャン・ルイは、未だに亡き夫を忘れることが出来ないアンヌに、いらだちを覚えます。アンヌも、ジャン・ルイの気持ちを理解します。しかし、二人がお互いを求め合っているのも、確かです。二人の将来はどうなってしまうのでしょうか?
ラスト・シーンの後の二人の将来について、いろいろと考え、語り合うのが楽しいでしょう。答えは、20年後に発表された『男と女 II』で明らかになってしまうのですが、この作品はアヌークの変わらぬ美しさぐらいしか印象に残らないので、「あえて見ないでいろいろ想像するほうが楽しい」と思われます。
音楽好きにはオススメで、筆者もサントラ盤を所有しています。「恋愛映画の魔術師」であるルルーシュの作品は娯楽性が強いからなのか、トリュフォーに比べ日本では評価が低いのが残念です。個人的にはルルーシュのほうが断然オススメです。特に最近は評判にならないのが非常に残念です。この作品が気に入ったらば、往年の作品はもちろん、『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(17年)など、ぜひ近年の作品もみていただきたいです。
「恋愛経験が豊富な方に一番フィットする作品」かもしれません。
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