ピーター・シフの主張のように問題なのは実体経済とデータの乖離!ゾルタン予言のL字型暴落は来年?
2月2日の米国雇用統計では雇用者数は予想の倍の伸び、過去11回中10回改悪された予測値も改善される文句なしの強い結果でドルは急伸、株価も最高値を更新しました。しかしIT業界中心にレイオフは続いており、ピーターなどは実体経済とデータの乖離を主張しています。今年は大統領選があるので、バイデン政権が経済が強いと見せかけ続けると、トランプ前大統領の懸念どおりハードランディングは来年に持ち越しされる可能性が出てきました。
米国1月雇用統計が強かったのは季節調整要因で昨年1月と同じ!統計操作の疑いも!
2月2日発表の1月の米国雇用統計はロイターにあるように、非農業部門雇用者数が投資銀行予想中間値の18万人に対して35.3万人の増加、過去11回中10回改悪されていた暫定値も12月分は21.6万から33.3万人の増加に上方修正され、失業率は3.8%予測が3.7%と前月と同じ、インフレ下で最も注目されてきた平均時給は4.1%予想が4.5%増加となり、想定外の強い結果となりました。当然のようにドルは急伸、米ドル円は146円台から148円台まで上昇しました。
今までと異なるのが、米国株式市場の反応です。3月の利下げ予想がほぼ吹っ飛び5月利下げ予想も下落したにも関わらず、下落から上昇に転じました。強い雇用統計は、高金利が長引くゾルタン主張の「ハイアー・フォー・ロンガー」が示唆されるので下落するのが常だったのですが、「米国経済は強い」という好材料として解釈を始めたようです。バイデン大統領も「米国経済は世界中で1番強い」とアピールしています。
しかし、「データは強いが、実態は数字ほどにはよくない」ようです。これは、ピーター・シフを始め何人かのストラテジストが主張している意見です。例えば、Forexliveによれば、この好結果は昨年1月と同様の季節要因に過ぎないそうです。昨年1月の雇用統計でも非農業部門雇用者数が47.2万人も増加しましたが、2010年代の1月の平均287万人の解雇に対して昨年は250万人であり37万人分が上乗せされたそうです。1月は季節要因により尋常でない数字となるわけです。
そして米国株は最高値を更新していますが、ピータによるとこれはレイオフによる利益率の増加要因が大きいそうです。メタは社名変更までしたメタバースが期待はずれとなったこともあり、2022年10月には株価が1年前の最高値から77%も下落しました。しかし、2万人ものレイオフ後には好決算が続き1月の第4四半期決算は利益が27%増となり、最高値を更新しています。このメタを真似てITやメディア業界では23年からレイオフの嵐が起きていますが、24年もこの動きが続くようです。ロイターの記事に書かれているように、アマゾンが全従業員の5%以下、その傘下のライブ・ストリーミング最大手のツイッチが35%、スナップが10%、イーベイが9%などその規模は23年を上回っています。ピータの1. 民間の正社員数は減少しパートタイムに置き換わり雇用条件が悪化、2.雇用を強く見せるための公務員の職が増加、3. 副業を2つも3つも持つのでダブルカウントされている。結果として雇用統計が実態よりもよく見えているだけだとの主張を昨年夏から紹介してきましたが、最近は日本語記事でも見かけるようになっています。米国GDPも2023年第3四半期が5.2%、第4四半期も予想の2%を大きく上回る3.3%と、昨年後半からは先進国とは思えない高成長となっています。雇用統計や原油の生産や在庫統計同様に、バイデン政権の大統領選に向けた統計操作が疑われています。
若年層やアフロ・アメリカン層が民主党離れに!無党派層もトランプ支持!
2022年11月の中間選挙では、共和党のシンボルである赤い波が起きて上院も下院も共和党が制すると予想されていました。ところがタイム誌にあるように、Z世代の支えにより上院は民主党が勝利しました。しかし国連の声明によるイスラエルーハマス戦争での女性や子供が死傷者の2/3という虐殺状況に、Z世代は憤っています。特にハーバードやペンシルヴァニア、M.I.T.のようなリーダー育成大学ではイスラエルを批判する学生運動が起こり、大口スポンサーであるビル・アックマン氏などのユダヤ人卒業生の抗議によりロイターに書かれているようにハーバード大学学長が辞任する事態となっています。欧州や日本もイスラエルを支持せず、米国のみが支持する中で、Z世代が民主党離れを起こしているのです。
ニューヨーク・タイムズによるとケネディ元大統領の公民権運動時代以来数十年も民主党の基盤だったアフリカ系米国人も、民主党から離れているようです。過去2回の大統領選で彼等の票の6%と8%しか獲得できなかったトランプ前大統領を24年の選挙では22%が支持するというのです。
そして添付の今年の最新世論調査では、無党派層においてもトランプ前大統領がバイデン大統領を11ポイントもリードしています。
パウエル議長やイエレン長官の支援と共にバイデン大統領が統計を操作し続けるとリセッションは今年は起きない?
こうした状況下では、ピーター達が指摘している統計操作が続き、パウエル議長やイエレン財務長官は大統領を支持し続けるでしょう。
ブルームバーグのニュースのタイトルとなっているFEDが利下げを検討し始めたというパウエル議長の一言により、3月利下げ開始というありえない予想が出現しました。2日後にはCBS記事のタイトルにあるように今までの記事で何度も紹介してきた政策銀行としての中立を保ち続けており、ゾルタンもかつては所属していたニューヨーク連銀のウイリアムス総裁が利下げ議論などなかったと否定しました。しかし好材料に反応し悪材料には反応しないユーフォリア状態の市場はこの発言を無視、3月利下げ予想は80%となり市場を席巻、その後米国株式市場はナスダック、ダウ、S&Pの主要3市場のすべてがクリスマスラリーに突入、2024年に入ると加速化し、2月4日金曜日に最高値をつけています。基本は金利差による米ドルロングですが、FOMC前にはショートをすれば利益が出る状況が続いています。2月6日放映のCBSの番組の添付資料の10:35から10:52のやり取りにありますが、パウエル議長は現在の史上最大の政府の財政赤字に対して将来の世代からの借り入れであり長期的には問題だと答えています。短期では問題ないという答えは、すぐにピーターらからバッシングを受けています。
イエレン財務長官も同様です。1月5日にはブルームバーグの記事に書かれているように、米国経済はソフトランディングを達成したまで言い切りました。1月31日の赤字決算発表後に株価が半分となった昨年破綻したシグネチャー・バンクを買収したNYCBについて、商業用不動産は懸念だが監督当局が対応していると問題視していません。もはや政府よりのパウエル議長とイエレン財務長官には、中立性は期待できません。
原油もEIAの資料に見られるように、民主党政権のESG政策でリグ数が減少しているにも関わらず、生産は増加しています。今年は米国には寒波が襲い需要は伸びているはずですが、在庫は積み上がっています。こちらも前週から大きく下げている際は別ですが、上昇やレンジの場合は水曜日前に原油をショートすればうまくいくというアノマリーが生じています。
そして1~2年前に既に破綻していたはずなのですが、1月29日に不動産業界大手の中国恒大集団に香港の裁判所が清算を命じました。この後中国株式市場は2月5日まで続落し、反対にブルームバーグにあるように中国から海外ETFへ約3,000億円が流出、その半分強は米国株に向かったそうです。
添付資料には、トランプ前大統領が経済破綻は起きるが1年以内に起きてほしいと発言し物議をかもしたとありますが、心情はよく理解できます。また、ピーターが財政赤字が過去最高で大きな危機にあると発言し、多くのインタビューを受けていますが、すべてのインタビューアーがいつ起きるかと尋ねますが、彼は答えられません。金利が5%以上も上昇したのにリセッションが起きていないのは異常事態であり、いつかは誰も分からない為です。ピーターは統計データと実体経済の乖離が激しいと主張していますが、残念ながら市場が信じるのは雇用統計や原油統計などの政府データやパウエル議長の発言です。そして不動産価格に続く株価の高騰により資産効果が起き、持てるベビー・ブーマーは安泰となっています。苦しんでいるのは、投資をしていない、賃貸生活で、ローンに頼る低所得者と若年層だけです。ただし、彼等はトランプ前大統領支持に回るでしょう。
大統領選挙の前年の昨年でさえ、バイデン大統領は湾岸諸国を敵に回してでもガソリン価格の高騰を防ぎました。低所得者と若年層の支持を得るために、今年は昨年以上に、ガソリン価格を低く抑え、株価の暴落はなんとしてでも阻止するでしょう。さらに、中国経済の停滞とゾルタン主張の冷戦による中国企業への投資の停止とサプライチェーンの再構築による中国株式の下落が止まったとは言い切れません。今後も米国市場への資金流出が続く可能性は否定できません。
日本でリーマン・ショックと呼ばれる2008年の株価暴落は大統領選挙の年に起きています。しかしこの暴落は米国では世界金融危機として2007年からとされており、株価の高値は2007年10月です。つまり大統領選の前年から株価は下落していたわけです。今回も政府の財政赤字急増によるフィッチの格下げを契機に長期金利が急上昇、昨年8月から11月まで株価は下がり、ハード・ランディングが懸念されていました。しかし、上述のパウエル議長発言による3月利下げ期待で、添付チャートに見られるようにS&P5002022年12月の高値を更新してしまいました。やはり大統領選挙の年である2000年のITバブルの破裂との類似はムック本で指摘してきたとおりもちろんあるのですが、ロイターに書かれている地方銀行救済のためのBTFPの3月撤廃が決定したことで、可能性は小さくなりました。FRBが商業用不動産問題は懸念するほどではないと宣言したことに等しいからです。
つまり、今回の金融危機はパウエル議長の鳩派発言で延長された可能性が高いわけです。トランプ前大統領には気の毒ですが、バイデン大統領はその使命である再選のために、リセッションの引き伸ばしという昨年も達成した大事を今年も成し遂げるのではないでしょうか?つまり、ゾルタンが予言したL字型の暴落は今年も起きないということです。2025年に起きる確率が高く、さらに下落率は上昇率に反比例して大きくなるわけです。