ビル・アックマンとピーター・シフのどちらが正しいかを読み解く!平時ではピーターだが有事ならビル!
米国30年債券を8月からショートしていたビル・アックマン氏が、米国10年債券金利が5%に達した段階でショートの解消を発表、ピーター・シフ氏はまだ早いと回答しました。どちらが正しいのかを、分析してみました。
ビル・アックマン氏は米国30年債券ショートで約300億円の利益!
8月7日付けの記事で、フィッチによる「米国国債格下げがゲーム・チェンジャー」となり「債務/GDPレシオ」が急速に注目を集め「米国長期国債金利は上昇」していく!米国では著名な投資家のアックマン氏が「インフレの長期的目標は3%となり米国30年債券利回りの5.5%(当時は4.2%)もありうる」と、米国30年債券の売却を開始したことを紹介しました。ビルはX上で10月19日に「ショートを買い戻した」と発表しました。この投資は大成功し、ロイターによるとたった2ヶ月で2億ドル(約300億円)の利益を得たようです。
これに対してピーターはX上で「おめでとう、素晴らしいトレードだ!しかし、『統計にあらわれている以上の経済の急速な悪化や地政学リスクは確かだが、インフレはまだ続くので、スクエアにするのは早すぎた』のでは?米国長期国債はインフレが突然上昇する際には最悪の資産であり、インフレをヘッジするには米国長期国債をショートし金をロングするべきでは?」と回答しています。
どちらが正しいのかを分析してみたいと思います。
ビル・アックマン氏の買い戻しは正解!
ビルが「米国30年債券売りを買い戻したのは、ロイターに書かれているように指標となる米国10年債券の利回りが2007年以来の5%に達したタイミング」でした。これは投資家である閲覧者の方ならご理解頂けるように「5%という節目」かつ「16年ぶりの高金利」の2つの条件が重なったのでとりあえず利確したのは当然ではないでしょうか?
さらにビルは、アシュケナジム系ユダヤ人を祖先に持つアメリカ人で、イスラエル-ハマス戦争についてX上で数多くポスト(ツイート)しています。有力なユダヤ系米国人として「イスラエルのネタニヤフ政権の予想される行動について通常の米国人より多くの知識や情報を持っている」と考えられます。
現在の第6次ネタニヤフ政権は極右政権でシオニズム運動を支持しており、国連や近日は「同盟国の米国でさえも地上侵攻を止めるべきだと進言していましたが、耳を貸さない」と思っていたのではないでしょうか?
「イスラエル-ハマス戦争の拡大を予期していたとすれば、一度利確するのは当然」だと思われます。ビルの発表と当日にかつて債券王と呼ばれたビル・グロース氏も、ブルームバーグにあるように「ハイアー・フォー・ロンガーは昨日の呪文」だと発言、米国長期債券利回りは一気に下落しました。
中期的にはピーターとビルのどちらが正しいのか?
しかしその後米国長期債券利回りは再度上昇、米国10年債券利回りは5%に近づきました。FEDが利上げを中止しても「米国政府債務問題はもはや収集がつかないレベル」に来ており「ハイアー・フォー・ロンガーは続く」という意見が再び優勢になっています。
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強かった米国株が崩れ始めた
そして10月27日には、先行指標とも言われる米国小型株の代表的指数ラッセル2000が、昨年9月の安値を下回りました。米国の代表的株価指数のS&P500は3週連続で下落、7月の高値を10%下回り、200日移動平均線も下に突き抜けました。「チャート分析でも弱気相場」にはいっています。イスラエル-ハマス戦争はガザ地区での地上戦という第2段階に入りました。さらなる調整が懸念されます。
米国株と米国長期債券利回りは負の相関があるので「米国株下落は米国長期債券利回りの上昇」に繋がるというのがセオリーです。
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コモディティ価格の上昇
イスラエル-ハマス戦争による地政学リスク懸念により「金価格が再度上昇、2000ドルを超え」ました。
10月9日の戦争勃発後にはわずか3ドルの上昇に留まった原油価格。米国の原油生産が急上昇したというEIAのレポートで、先々週半ばに急落しましたが、ゾルタンの指摘のようにバイデン政権の再生エネルギー推進政策による米国の原油生産設備は減少しており、統計結果が疑問視されています。停戦期待で先週は下落しましたが、ロシアとサウジアラビアの協調減産で供給はタイトであり、上昇傾向にあります。
SPR(戦略石油備蓄)は、第4次中東戦争が原因の1973年の第1次石油危機によりが設立されました。こうした有事のための備蓄をガソリン価格下落のためにバイデン政権は昨年から大量放出、サウジなど湾岸諸国がG7からBRICS側についたことは何度も解説してきました。第4次中東戦争からちょうど50年後にイスラエル-ハマス戦争が起きたわけですが「SPRはわずか2週間分」しかないと報道されています。「戦争が拡大すれば原油価格も上昇」していくでしょう。
コモディティ価格の上昇はインフレを加速化させ「米国長期債券利回りの上昇」に繋がります。中国だけでなく日本も加わった「外貨準備高での米国国債保有の減少と金保有の増加もこれを後押し」しています。
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米国政府負債の急上昇
このシリーズで何度も紹介している「米国政府負債問題」ですが、最近さらに注目を集めています。まずは10月末の総額ですが33.67兆ドルと「8月末から1兆ドルも増加」いるためです。
次に、AP通信ニュースに書かれているバイデン政権がイスラエルへの全面支持を表明、下院院内総務の辞任により棚上げになった「ウクライナに加えイスラエルへの1,050億ドルもの軍事支援を議会に要求」したからです。11月17日の政府機関閉鎖を避けるためには下院院内総務に選出された「トランプ派のジョンソン氏がこれに賛成するか?」が注目されています。
米国政府負債の上昇は米国の信任低下により10年〜30年という長期間米国国債を保有するリスクプレミアムを増加させるので「米国長期債券利回りの上昇」となります。
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地方銀行や新興企業、商業用不動産の破綻リスク、住宅危機と株価暴落
3月に破綻したSVBにより引起された金融危機はFDICが預金保護限度額の25万ドルを超える預金を保護したために「預金者は救済」されました。しかし、その後も数行の中堅銀行が破綻しました。そして地方銀行の預金は大銀行やMMFなどへの流出が続いています。KBW銀行株指数は5月の今年最安値に並び、JPモルガンのダイモンCEOが、就任以来初めて自社株を売却すると発表するなど「地方銀行破綻への懸念」が広がっています。
まだ赤字で負債を抱える「新興企業は政策金利が5%を超えたために資金繰りが苦しくなっている」と報道されています。ラッセル2000指数が安値をつけたように小型株離れが起きています。
さらに商業用不動産価格は西海岸を中心にビッグテックのレイオフやリモートワークにより大きく下落、デフォルトリスクが増大していることは何度も解説してきました。SVB破綻の原因となった商業用不動産ローン金利上昇と合わせて3月よりも状況は悪化しています。「ハイアー・フォー・ロンガー」の定着により将来の展望も開けていません。
住宅ローン金利は8%を超え、5%以下の低金利からの借換えが起きず住宅供給は減少、価格は高止まりしています。かつては高収入の象徴だった「6桁=10万ドル」の収入がないともう住宅は購入できないと言われ始めています。賃貸物件が不足し価格が高騰、ホームレスも増加しています。米国のGDPが4.9%上昇というニュースは軽犯罪で起訴されないショッピングセンターでの盗難が倍増しているなどのニュースからあまりにかけ離れています。
こうした要因により1987年のブラックマンデー、2000〜2002年のITバブルの破裂、2008年のリーマン・ショックのような「株価暴落が起きればFEDは緊急利下げを実施、米国長期債券金利も急低下する可能性」があります。
1.〜3.のシナリオではインフレは長期化、米国長期金利も上昇を継続、「ピーターの意見が正しい」ことになります。
しかし、2.に書かれた「イスラエル-ハマス戦争がイスラエル-イラン戦争に拡大」して金や原油価格が過去のオイルショックの際のように急騰または4.で解説した要因により「株価が暴落」すれば米国長期金利は下落、「ビルが正解だった」となるでしょう。「金利のつかない金と米国債金利が同時に上昇している事自体が普通ではない」わけです。
どちらが正しいかは「イスラエル-ハマス戦争の成行き次第」ということでしょうか?「平時が続くのならばピーター、有事が起きるのならばビル」ということです。
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