ゾルタン・ポズサー ロシアが巻き返しを画策、脱ドル化が進まないのは金兌換になっていないため!
ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏の主張した地政学的リスクは、ウクライナから欧州、アフリカ、中東へと拡大しています。一方、脱ドル化(De-dollarization)の進展は遅いようです。金兌換が実行されていないからです。
米国の巻き返しに対して実はロシアも反撃をしていた?
前回の記事では、バイデン大統領がレイソンのサウジでのミサイル防空システムの工場建設を中止させ、サウジとアフリカでのレアメタル獲得で提携、EUと湾岸諸国、インドと港湾確保で一致するなど「疎遠となっていた米国とサウジが接近」していることを紹介しました。
その後、ロイターにあるように、「サウジとイスラエルの平和条約締結」も決定しつつありました。「サウジが要求していたのは米国との防衛条約の締結」であり、その見返りにパレスチナへの譲歩を極右のイスラエルのネタニヤフ政権に求めない「パレスチナとイスラエルとの共存の破棄の危険性」の2つへ民主党議員団が警戒を強めていたわけです。
この「サウジとイスラエルの接近を危惧」していたのは、米国議員団だけではありません。1月にサウジと国交を結んだイランと原油供給削減で協調をしてきたロシアです。そして、突如起きたのが、ロイターに書かれているガザ地区の支配で満足していたはずの「ハマスによるイスラエルのミサイル攻撃とイスラエルの報復によるパレスチナ戦争」です。イスラエルとサウジの関係正常化を阻止するためであり「イランとロシアが背後にいる」わけです。ガソリン価格引下げを至上目標とするバイデン大統領は、原油価格低下のために戦略備蓄を40年来最低のレベルまで引下げ、さらにWSJの見出しにあるように人質交換の際に規制を緩め「制裁を課しているイラン原油輸出が急増」していました。このパレスチナでの紛争により、イランへの制裁を強めざるを得ないでしょう。パレスチナ地域は原油生産と直接関連しませんが「イラン産原油輸出の減少は原油価格再上昇に繋がり、サウジとロシアにとっては嬉しい結果」となります。ゾルタンが以前の記事で解説していたように、イランがホルムズ海峡を封鎖したり、イスラエルがイランの原油施設を攻撃すれば、「近年最高の生産レベルに達したイラン原油生産は減少し、原油価格を押し上げる危険」はあります。
一方、EUの情報では世界は2億4千万人が飢餓に苦しむ「過去最悪の食糧危機」に入っています。この原因がウクライナ紛争とウクライナの穀物輸出を妨害しているロシアにあるのは、いうまでもありません。
そして、イタリア最南端の5,000人の人口の島に3日間でアフリカからの移民が8,000人流入してパニックが起きているというBBCの記事の原因は「自国では食べていけない人々が増えている」からです。2023年8月までに「12万6千人がイタリアに漂着、昨年の倍」だそうです。この移民は以前の北アフリカのベルベル人ではなく、サブサハラと呼ばれるサハラ砂漠以南の「旧フランス領の西アフリカの人々が中心」となっています。以前の記事でゾルタンが指摘していましたが、この地域での旧宗主国フランスの影響力は低下し「軍事面を支配しているのがロシア、経済面は中国」です。「移民急増のもう一つの原因は、最近続いているクーデター」です。BBCにあるように、ニジェールのそれは「ワグネル=ロシアがからんでいる」とされています。
ルモンド紙によると、フランスは移民受け入れ意志がなく国境を封鎖したそうです。旧宗主国として移民を受け入れるべきだとイタリアは強く非難しています。添付記事にあるように独仏伊で協調していこうとなったようですが、移民を受け入れてくれるメルケル元首相はもう退任しています。移民を受け入れたい国はなく「EU=NATOに亀裂」が生じています。
米国財政赤字拡大と下院議長解任による「米国長期金利の急上昇にもロシアが絡んでいる」というニュースも、いくつか目にしました。「ウクライナへの追加支援は下院で否決」されました。BBCの記事にかかれていますが「一番の支援国だったポーランドは穀物輸出問題を境に支援に否定的」になっているようです。他のBBCにありますが「スロヴァキア選挙でも親ロシアの野党が勝利」しました。「ウクライナへの支援疲れ」が広がっています。
バイデン大統領が表立っては外交成果を挙げていたのですが「ロシアは陰で動く」ようです。中東、アフリカ、EU、さらに米国まで「ロシアの影の外交政策が影響」しているようです。
ロシアン・ルーブルは下落中!解決策はゾルタンの指摘したルーブルの金兌換!
そうはいっても、ロシアが有利というわけではないようです。「ロシアも追い詰められている」のです。
ロイターにあるようにロシアが9月15日に1%の利上げを決定、公定金利は13%となりました。インフレ見通しは年末時点で6~7%です。欧州並みの高さとなっています。ロイターの他の記事に書かれているように、ロシア中央銀行は8月には緊急会合を開き3.5%の利上げを実施していました。1ドル=100ルーブルを超えるルーブル安でインフレ懸念が高まっていたからです。一時的には効果がありルーブルは上昇しましたが、再び下落してしまいました。利上げだけでの解決は困難なようです。
オリーブオイルに続いて砂糖が12年ぶり、ココアが44年ぶりの高値をつけるなどこの数ヶ月で二桁上昇となり世界的に「インフレが再開」しています。カナダのCPIショックもありましたが、米国も2ヶ月連続でCPIは上昇しています。「インフレの第2波」です!財政赤字と共に米国金利を押し上げ、米国債利回りは短期だけでなく長期も上昇しています。米ドル高です。
2MバレルのOPEC+の減産に続くロシアとサウジによる自主的な1.3Mバレルの減産によりWTI原油価格は一時90ドルに到達しました。その結果としてルーブルは強いと思っていましたが、実際は反対の結果だったわけです。「原油が上がれば上がるほど、ルーブルは下落する」ようです。
ゾルタンが主張していた「金兌換のBRICコイン」は、インドなどの反対でBRIC会議の議題に登らず、BRICS11が一枚岩でないことを鑑みると「簡単には実現しない」ようです。こうなると解決策は、以前の記事でゾルタンが指摘していた「制裁されているロシア原油2バレルを米ドルではなく1グラムの金と交換する」という「ルーブルを金兌換にする」というアイデアです。これこそが現在の西側主導の「米ドルを中心とした世界金融システムへの挑戦」となるわけです。米ドルより信頼のある通貨は世界に存在しません。「代替がない」というのが「脱ドル化はありえない」というストラテジスト達の論理の根拠です。しかし「金は紙切れの米ドルよりも信頼がある」わけです。
添付資料にあるようにロシアの金備蓄は公式では10年で倍増し2,300トンですが、1万トンという噂もあるようです。これはインドや中国についても同じで、公式数値より多くの金を備蓄していると言われています。特にウクライナ紛争後のロシア資産凍結後です。
金塊が使用されるわけですが、以前のゾルタンの記事では中国人民銀行もペトロ人民元取引では金を使用するとされていました。取引先はグローバルサウス諸国となるでしょう。ロイターにあるプーチン大統領がルーブル防衛のために何かしらのアクションを起こすと語っているのは、金兌換なのかもしれません。
中国人民元やインドルピーも下落中!金兌換なしでの地域通貨取引は無理?
制裁されているロシアとは異なり、西側の主要な貿易相手国である中国人民元や西側とグローバルサウスの架け橋となろうとしているインド・ルピーも、米ドルに対して下落しています。
「通貨の値段は信用」で決まります。ルピー建て取引や人民元取引が広がってきたと紹介してきましたが「インド・ルピーや人民元を大量に備蓄したい」と湾岸諸国が思っているとは考えづらいです。米ドルやユーロのような信頼性が、現時点ではないからです。やはりゾルタンの主張するように「人民元もインド・ルピーも金の後ろ盾が必要」なのではないでしょうか?
これが理由なのか、脱ドル化を目財しているためか、両方かは定かではありませんが「中国、インド、湾岸諸国、そしてロシアが米ドルに変わり戦略備蓄において金の備蓄を急速に増やしている」ことは上記のように多くのニュースで周知になっています。
なぜゾルタンがロシア原油と金との交換を示唆したのかは分かりませんが、これはサウジ原油でも可能なはずです。「BRICS11は、世界的信用が低いBRIC国の通貨間での相互取引に金を兌換させようと計画している」のではないでしょうか?来年のBRICS会議はロシアで開催されます。まずは「ロシアが金兌換ルーブルを採用した時に、中長期的な米ドルの下落が始まる」のかもしれません。
そして上記のゾルタンの記事にあるように、ロシアが原油2バレルを米ドルではなく1グラムの金と交換するシステムを開始すれば、金価格は現在の倍を目指すこととなります。米国長期国債の上昇で金利のつかない金は、下落しています。しかし、長期国債金利の急上昇の割には強く、チャート上の節目の1,800ドルを割れていません。「押し目は買場」なのではないでしょうか?
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